〜TRAP〜 罠!

罠の真の恐ろしさは、かかった自覚がないことにあります。
“罠”とは“認識されにくい失敗パターン”であり、
臨床ではいつの間にか習慣になった間違った医療をさします。


人間が情報収集をするときには、必ずしもその重要性に応じて優先順位を付けるわけではありません。脳は情報に接した際に、自分にとって都合の良い情報か不都合な情報かを最優先で無意識下に判断し、都合の良い情報を優先して記憶し、不都合な情報を排除するという特性があると考えられています。その特性上、人間は情報に対して無意識に選別を行うために、どんな人でも完璧な情報収集とその整理をすることはできませんので、知識という情報を収集する過程でも、かならず空白が発生します。知識を“積み上げていく情報”と考えると、不完全な情報の上には新たな情報は蓄積されず、バグは年々大きくなっていきます。そして、やがて自身の情報が不完全であるという事実は、まったく認識されなくなります。


臨床では、苦手な分野や実現できない手技、嫌いな人間が活躍している分野の情報などが、この排除の対象になります。総合能力を要求される臨床の仕事では、この“知識のバグ”が多くの失敗や不都合な事象を引き起こします。しかし、脳がすでに関連情報を排除しているために、その事項は“失敗”として認識されることはなく、実際に治療や診断の失敗で“殺してしまった”動物を“死んでしまった”と思い込んでいるケースすらまれではありません。


通常のセミナーは“受講生が聞きたい内容”をテーマに開催されますが、HJSでは、基本的に“講師が伝えたい情報を臨床家に提供する”ことを基本としています。聞きたいセミナーのみを聞くという姿勢は情報の隔たりを増強し、専門家が伝えたい内容を聞くことは知識のバグを防げる可能性があると考えているからです。今回の年次大会は、これらの“知識のバグ”の展覧会ともいえます。2日間という短期間に12項目の情報が並んでいます。その中に自分が興味のない講演があったなら、ぜひその講演を聞いてみてください。それがあなたの“知識のバグ”であり、自身がかかっている“罠”です。きっと聴講によって罠を認識し、それを回避できるようになることでより多くの動物を助けられると思います。